『蟲姫様の魅せる夢』

 僕に恋人が出来た。生まれてこのかた女と縁の無かった僕に、やっと恋人が出来た。

 彼女の名は「リグル」。3日前に西の荒地で彼女に出会い、そのとき「3日後に『準備』が整うからもう一度会いに来て」と彼女に言われた。そして、今日がその「運命の日」なのだ。

 彼女は少女のような...見ようによっては幼女のようにすら見える小さくほっそりした姿をしていた。そして彼女の体からは甘酸っぱいような奇妙な匂いがしていた。決して嫌な匂いではない。これが女の色香と呼ばれるものなのだろうか? それは、彼女を守ってやりたい、彼女の為なら全てを投げ出し、差し出しても構わない...僕にとっては、彼女こそが運命の人だと思わせるような不思議な香りだった。

 彼女に出会った西の荒地で、彼女は僕を待っていてくれた。彼女に会うまで、僕は不安で仕方なかったのだ。僕は彼女を好きだが、それは僕だけの、一方的な思い込みではないのか?不安で不安で仕方なかった。

 でも、彼女は僕を待っていてくれた。世界はなんとすばらしいのだ!愛こそ全て!

 彼女は僕の手を引いて、山の中へ、森の奥へと導いて行った。
 小一時間ほども歩いたろうか? 「これから何が起きるんだろう?」疑問はあったが、不安は無かった。村からは大分離れてしまったが、彼女といっしょなら、世界は全て薔薇色に見えた。

 森の中の急斜面に洞窟があった。その横穴の中、雨の当たらない程度に奥まった場所に高さ3m、直径1.6mほどの『繭』があった。それはどう見ても『繭』としか言いようがない、うっすらと黄色味を帯びた色の細い糸で紡がれた繭に彼女...『リグル』は自分から先によじ登り、「さあ、来て、此処が私達の『愛の巣』よ」と僕を誘った。

 「こんなことがあっていいのか?」「こんなにも早く・あっけなくコノ時がきてしまったのか?」と僕は感無量だったが、何をためらう必要があろうか?

 まるで夢見るような気分で僕は彼女を追いかけて繭の中に這入って行った。

 よく考えれば、僕の太って運動不足の体では3mもある繭の入り口によじ登るのは難儀なはずなのに、そのときはなぜか何の苦も無くスルスルと登ることが出来た。

 繭の中は、外から見るよりも広く、繭の壁は思ったより軽く薄く頑丈そうで、それでいて柔らかく優しい肌触りだった。そして、薄暗くはあったが真っ暗ではない...「ほの暗い」という表現がぴったりな、愛を語り合うにはちょうど良さそうな明るさだった。

 彼女、『リグル』は言った。
 「さぁ、これから二人で、とても気持ち良くなる事をしましょうね!」
 僕は自分が性的に興奮していることに気付いた。
 さらに彼女は言った。
 「ちょっと、恥ずかしいから、お願い、うつぶせで大の字になって」

 そんな体勢で、どんなコトをするのかわからなかったが、彼女の言うとおりにすると、彼女は僕の背後からのしかかり、節くれだったようにも見えるほっそりした彼女の指...カブト蟲やクワガタ蟲の鉤爪にも似た指で僕の両手首を、しっかりと握り締めた。それから彼女は、同じように脚の指...後ろ脚の鉤爪で僕の両足首をもしっかりと握り締めた。

 僕は興奮していたが、興奮しているのはリグルも同じだった。
 やっと男を捕まえたのだ。卵を植えつけるのに良さそうな、血糖値の高そうな、皮下脂肪の多そうな、植えつけた卵が孵化した後も、『リグル』のカワイイ幼虫が内臓を喰べ尽くすまで死なずにいてくれそうなキモヲタデブ男をもう逃げられない繭の中に誘い込み、バックを取り、手首・足首を完全に捕まえたのだ。もう、この体勢からならキモヲタデブ男を逃がす心配は無い!

 「ジガジガジガジガジガ!」興奮した『リグル』は体中の外骨格の間接をこすり合わせ、軋み音にも似た鳴き声...喜びの歌を歌った。リグルは腹の両脇に複数ある気門で呼吸をするが、その呼吸が荒くなり、シューシューと音を発てて蛇腹のような外骨格の腹部を伸縮させた。

 うつぶせになったキモヲタデブ男からは見えなかったが、リグルの少女のような顔は幻想郷の愚かな男を騙すための擬態であり、実は昆虫の顎の部分なのだ。興奮した『リグル』はその顎の部分をパックリと開き、蚊や蝿のような漏斗状に尖った口吻を顎の奥から出し入れした。

 前脚でキモヲタデブ男の手首をつかみ、後脚でキモヲタデブ男の足首をつかんだ『リグル』は隠していた中脚でキモヲタデブ男の細い腰帯を解き、脚絆(「もんぺ」に似た作業用のズボンのような下半身用の衣服)を摺り下げ褌(ふんどし)(幻想郷の男の多くは褌を着用している)を脱がしてしまった。

 自分の子孫を残せる事の喜びに興奮しきった『リグル』は一際大きく「ジガ自我似我ッ!」と鳴くと、下腹部の先端にある産卵管を兼ねた毒針をキモヲタデブ男の脊髄、太陽神経叢に結びつく脊柱の軟骨部分に過たずに「ぢぐッ!!」と刺した。トロトロの、すっぱい毒を気持ちよくキモヲタデブ男の脊髄に「じゅじゅじゅじゅじゅ〜」と気持ちよく・気持ちよく・気持ちよ〜く流し込んでいく。

 これでそう遠からずキモヲタデブ男の下半身は完全に麻痺し、苦痛も感じなくなるだろう。だが、それを待つことも無く『リグル』は毒針をキモヲタデブ男の臀部...肛門の周囲にぐるりと矢継ぎ早に刺していく。「ヂグ!ヂグ!ヂグ!ヂグ!ヂグ!ヂグ!」

 刺された瞬間は痛いが、まるで蚊や蜂に刺された如く、その部位は充血し赤く膨れて発熱する。痛いようなムズ痒いようなある種の快感ともいえる、もう放って置けないような、掻きむしりたくなるような刺激がキモヲタデブ男の肛門と陰部を蝕む。

 そして『リグル』は毒針を兼ねた産卵管をキモヲタデブ男の肛門に差し込み、その先端を直腸を通り越して大腸との境目...肛門側から見たS状結腸の突き当たりを突き破って腹腔内に産卵管を至らしめ、産卵管の太さギリギリ一杯の可愛い卵をキモヲタデブ男の腹腔内に気持ちヨク植え付けたのだった!

『リグル』にとって、それは最高の快楽。最高の幸せ!

『リグル』はより激しく蛇腹状の腹部を伸縮させて、その両脇の気門から荒い呼吸を繰り返した。

 もう、『リグル』は自分の快楽を満喫するのに夢中で、デブヲタキモ男の苦痛なのか快楽なのかわからない、情けない、断末魔の豚の悲鳴にも似た叫びなど耳に入らない。

 デブヲタキモ男に卵を産み付け終わった『リグル』は、デブヲタキモ男の首の後ろ...いわゆる延髄に産卵管を兼ねた毒針を打ち込むと仕上げに最後の毒の一滴を流し込んだ。

 そして、リグルは一人繭の中から這い出ると、繭の入り口をまるで無かったかのようにきれいに塞いでしまう。

『リグル』の『毒』はデブヲタキモ男を殺さない。むしろ生かし続ける。

普通なら苦痛を感じ、ショック死してしまうはずの哀れな被害者に快楽を与え、夢を見させ続ける。

 そうすることによって、哀れな被害者の体内で孵化した幼虫が被害者の内臓を貪り喰い、成長し続ける間デブヲタキモ男が、哀れな被害者が...可愛い幼虫の餌が死んで腐ってしまわないように生かし続けることが出来るのだ。

 デブヲタキモ男の体内を喰い進む幼虫も、ある種の本能で、致命的な部分を避けて最後の最期まで哀れな被害者を生かし続け、夢見させ続けるように、麻痺毒と止血剤を兼ねた体液をデブヲタキモ男の体内に注入し続ける。

 そうやって『リグル』の白く半透明な可愛い幼虫は栗の実やとうもろこしを内部から喰い荒らす害虫のようにモゾモゾとデブヲタキモ男を喰っていく。

 デブヲタキモ男のとりあえずの生存に必要のない上腕部および大腿部の筋肉と皮下脂肪をまずはペロリ。(成長したら、狭い腕の中まで喰べに来れないから)次に食道、胃、十二指腸、小腸、大腸をペロリ。

 その間、苦痛でショック死しないように麻痺毒を射ち込まれた哀れな被害者、デブヲタキモ男は夢を見続ける。

 デブヲタキモ男の脳内にはエンドルフィンやドーパミン、ベータフェネファミンなどの脳内麻薬物質がもう、ドバドバと出まくってA10神経がギンギンに興奮しまくるのだ。

 デブヲタキモ男は、少女のような、幼女のような、ほっそりとして愛らしい『リグル』と、いつまでも、末永く、幸せに激しく愛し合う夢を見続けるのだ。
(ああ、デブヲタキモ男が可哀相でうらやましい!)

 もう、哀れな被害者を、デブヲタキモ男を内側から喰うことが出来なくなるまでに内部から喰い尽くし、子猫ほどにも成長しきった『リグル』の幼虫はデブヲタキモ男の臍の右下辺り、盲腸のあった辺りを喰い破って体外へ出てくるが、それでも哀れな被害者は生き続ける。

 腹部や上腕、大腿部などを内部から喰われ、かつてデブヲタキモ男だったソレは頭と下腕部と胸と骨盤と下腿部のみが膨れて、他は空気の抜けたゴム風船のようになっている。

 デブヲタキモ男の体外に出た幼虫は、それでも最後の最期までデブヲタキモ男を...哀れな被害者を生かしたまま貪り喰い続ける。

 止血剤と麻痺毒を兼ねた体液を射ち込みつつ、魚を突いて獲る漁法で用いる銛(もり)のように、刺さった獲物を逃がさないような「かえし」の付いた漏斗状の口吻をデブヲタキモ男の眼球に突き刺し、抉り取って喰べてしまう。

 キモヲタデブ男のぽっかりと空洞のように空いてしまった肉色の眼窩は、まだ生きているとはいえ、そう遠からず訪れるであろうデブヲタキモ男の運命を暗示するかのよう。

 さらに『リグル』の可愛らしい幼虫は男の残った部位、下腕部・下腿部、下腹部を喰べる。

 そして、とうとうデブヲタキモ男の幸せな夢が終わる刻がやってくる。

 もうこれ以上はデブヲタキモ男を、哀れな被害者を生かしたまま喰べることは不可能なのだ。

 『リグル』の幼虫に情け容赦はない!
 『リグル』が、『リグルの幼虫』がある意味デブヲタキモ男を愛していたという事実は嘘ではないが、所詮それは牧場主が食肉用の牛や豚を愛しているというのと同程度の意味しかない。それでも、愛は愛であり、真実の愛であった事も事実なのだ。

 リグルの幼虫はデブヲタキモ男の静脈から血を吸い出す。最後の一滴までこぼさずに血を吸うには動脈より静脈のほうが都合がいいのだ。

 ちょうどその頃、麻酔が覚めかけたデブヲタキモ男は夢から覚めかけて自分が死にかけていることにうっすらと気付く。

 快楽に満ちていた夢は、ここで突然薄ら寒い悪夢へと替わる。

 デブヲタキモ男は薄れいく意識の中で思う。
 「せっかく、イイ夢を見ていたってのに、どうして最期までいい夢を見せてくれないんだ?」「どうせなら終わりまで、あとほんのちょっとだけイイ夢を見せてくれればいいはずなのに、なぜ裏切るんだ!?」

...そんなコト言われたって...ネェ...

騙された愚かな男が、最期までイイ夢見ようだなんて...
そりゃ、ちょっと「蟲が良過ぎる」ってモンじゃねぇですかい!?
(うけけけけけけけk)

 その後、リグルの幼虫は哀れな被害者の、デブヲタキモ男だった物の残った部位...

スルメのように噛めば噛むほど味わい深い皮膚や、隠されたおいしさの骨髄や、栄養満点の腎臓・肝臓・心臓・肺臓や頭蓋骨の中にしまい込まれた珍味たる甘くてふわふわの脳髄やらをうまそうにうまそうにうま〜そ〜に、かつ腐らないうちに手早く貪り喰ったが、そんなコトはもうどうでもいいことであろう。

【終劇】

 極東神殿騎士団本殿へ

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